◆ Notes 〜 映画コラム ◆
映画フィルムで、えくすたし
は
じめにお読みください〜このコラムについて
★第3回 「アメリ」「ロング・エンゲージメント」と名画座のありかた
ロードショーを見たいけど、夏にイナカでやってるのは「特攻野郎」だの、「ベスト・キッド」の吹き替え版だのと、子供向け
のものばかり。
あ、言っときますが吹き替え版をバカにする気は全くありません。あれはあれでいいものですから。
ミラジョボの「バイオハザード」なんかは楽しそうなんですが...。
で、このたび見てきたのはジャン=ピエール・ジュネ監督作「アメリ」と「ロング・エンゲージメント」の2本立て。
前回コラムのサイレントから80年ほど(!)新しくなったものの、またもや旧作です。
でもこの2本、とっても味わい深くて、特に「ロング〜」は久
々の上映とあって楽しみにしていました。
場所は東京・高田馬場の早稲田松竹。古くからある名画座で、ロードショー落ちの2本立てほか、スコセッシの「タクシー・ド
ライバー」や溝口健
二など、過去の名作も時々やります。
数年前改装して画質、音響など格段に良くなりました。座席も現代的なものとなり、当初「こんなに金かけち
ゃって、ダイジョブなの?」とハタ目に心配になりましたが、9/2 (木)昼の上映でも半分以上の客の入りと、改装のかいもあってか入場者数は安定
しているようです。
「アメリ」 Le
Fabuleux Destin d'Amelie Poulain (2001年/フランス/122分/35mm ビスタ)
監督:ジャン=ピエール・ジュネ 音楽:ヤン・ティルセン 出演:オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ ほか
個人的にとても好きな映画で、ロードショーで2回ほか、アンコール上映など含めて5回目の鑑賞です。
妄想好きの風変わりな娘アメリと、自販機の証明写真の失敗作を集めるという風変わりな趣味を持つ青年ニノとの恋のゆくえをメルヘンチックにつ
づったファンタジー・ラブ・ロマンス。
フランスで長編2作を撮っただけでハリウッド大作「エイリアン4」に異例の大抜擢をされたという気鋭の監督、J.P.ジュネがパリを舞台に撮った
作品で、アカデミー賞4部門にノミネートほか、世界中で大ヒットしました。
当時、横浜に関内アカデミーという単館系の映画館があって、いつも「そこそこ」の入りしか見たことがなかったのが、「アメリ」ですごい行列に
なっていたのを覚えています。
さて、作品の魅力に関しては多分たくさんの人が語っていると思うので私なりの視点で。
ヤン・ティルセンの哀愁に満ちたテーマ曲「初めての場所」と共に、凝りにこった映像のオープニング・タイトルが始まると、
とたんに切ない気持
ちがこみ上げます。
ほどなくしてピアノによる「ある午後の数え詩」の切ない調べと共にアメリが生まれた当時の様々なエピソードが語られます。
「○○氏は友人の葬儀から帰って住所録から1行を消し去った」など、映像作家のジュネ監督が日ごろから書き溜めているであろうエピソードの数
々は心憎いほどうまく、それを語るフランスのベテラン俳優、アンドレ・デュソリエによるナレーションが実に印象的です。
今回新たに気づいたのは、幼少期のアメリが可愛いがっていた金魚とお別れした寂しさを紛らわすために、親が買い与えたカメ
ラでいろいろ撮影す
るシーン。
彼女がカメラを向けた空の雲がうさぎさんとくまさんの形になっていて、なんとも可愛くておかしい。
どちらも1秒くらいのカットで、
今まで字幕を追っかけていたせいか気づきませんでした。この辺のおちゃめな演出はジュネ監督ならではです。
1秒のカットの話が出ましたが、この映画は短いカットの積み重ねが特徴的です。
出来たのを見てるぶんにはあまり感じませんが、コレ作るの、もの凄く大変です。
アメリの妄想「今この瞬間に絶頂に達した恋人たちの数=15人」なんてのまで1秒くらいのシーンをいちいち撮ってるし。
撮影はモチロン、編集も気が遠くなりそうだったことでしょう(もらい泣き)。
宣伝用写真などで当時大反響を呼んだ、「アメリの好きなこと。カリカリのクレーム・ブリュレの焼き目をスプーンで割るこ
と」での有名なカット
もタッタの1秒足らずだし、他のエピソードもだいたいこんな調子です。
こうして作られた、笑える、泣かせる、エッチな、かわいい、ほのぼのしたエピソードの数々が重なり合って、決して単純では
ない結末へと収束し
ていきます。
映像はカラフルでポップ。まるで現代のおとぎ話のようなラブ・ストーリー。
総尺約2時間の作品ですが、その長さを感じさせない飽きのこない構成になっていて、終わりが近づくとなんだか寂しい気にさせられます。
また、音楽の素晴らしさもこの映画の大きな魅力です。
フランスの気鋭の音楽家、ヤン・ティルセンによるサウンドトラックは当時聴きたおし、今もゆったりと癒されたい時などに愛
聴しています。
CD:
「アメリ」オリジナル・サウンドトラック
前述したテーマ曲 M1 に代表されるアコーディオンの音色をいかしたものはフレンチ・テイストがいっぱいだし、
M16 にみられるおもちゃのピアノ
風の音はどこか懐かしくて心が和みます。
また、M4、M17 などの哀愁をたたえたピアノ曲はラヴェルやサティのごとき美しい優雅さが感じられます。
このサントラ盤の曲は本作以外でも、NHK や民放テレビの情報番組、ラジオ CM
などでもよく使われていたので、「アメリ」を見たことのない人で
も聞き覚えがあるかもしれません。
また、2曲使われている1930年代頃のシャンソンのうち、 M7「ギルティ」は海外 TV
ドラマなどでよく耳にします。劇中ではアメリが勤めるカフェ
・ド・ムーランでの和やかなシーンで使われ、優雅でウキウキするような曲で、個人的にとても好きです。
「アメリ」の音楽はこうした、テレビなどで音楽を付加する音響効果、通称「音効さん」にも愛されていることからも、映像向
きの音楽として優れ
ていることがわかります。
おたく的小ネタとしては、
後半部での駅〜写真自販機のシーンではサントラ未収録の曲が使われているし、やはり後半部、ガラス男デュファイエルのアパートを「いじめられ
店員」リシュアンが訪ねるシーンでは器楽合奏アレンジの曲(何かは思い出せない)がピアノ・アレンジとなっています。
アメリ・ファンとしてはこうしたサントラ以外の曲も欲しいところです。
私は去年埼玉・春日部でのアンコール上映以来1年ぶりと、比較的短いインターバルで見ましたが、見るたびに発見や新たな感
慨がわきます。
魅力的なエピソードがいっぱい詰まったおもちゃ箱のような「アメリ」は何度見ても楽しく、まさに傑作といえるのではないでしょうか。
「ロング・エン
ゲージメント」 Un long dimanche de
fiancailles 2004年/フランス/133分/35mm シネスコ)
監督:ジャン=ピエール・ジュネ 出演:オドレイ・トトゥ、ギャスパー・ウリエル ほか
戦場で行方不明となった青年の謎を幼なじみの婚約者が探っていくミステリー・ラブ・ストーリー。
彼は戦死なのか、処刑なのか、それとも...いちるの望みを抱いてけなげに、時には大胆に行動するヒロインを「アメリ」のオドレイ・トトゥが
演じています。
公開当時、私はマスコミ向けの映画会社の試写室ではあえて見ずにロードショーでの丸の内の劇場の巨大スクリーンを選択。セ
ピアがかった美しい
映像と迫力の大音響と共に感動して見たのを覚えています。
この映画の見どころのひとつである、壮大な戦場シーンの迫力は正直、今回の上映では丸の内に遠く及びませんでしたが、作品の随所に散りばめら
れたそこはかとないユーモア、幼少期から成長するまでの恋人たちのロマンチックな描き方など、ジュネ監督の「味」は充分堪能できました。
「車より先にあの角へたどり着けば彼は生きてる」といったけなげな妄想は「アメリ」にも通じるものだし、マチルダ(A. トトゥ)が岬でホルンを
吹くシーンなどはすっトボケたおかしさがあって笑えます。
また、郵便屋が自転車でホイール・スピンのエピソードなんて、男の子なら誰でもやっていただろう遊びだし、こういうのをう
まく取り入れるジュ
ネ監督のセンスはさすがです。
こうしたユーモラスなエピソードが全編に渡って散りばめられていて、最後まで興味深く見られます。
フランスの切り立った海岸や田園風景の美しさなども見ものです。
ただし!ユーモアといった点では戦場のシーンでもそれを数多く入れているため、戦争の悲惨さが薄れてしまって少しもったい
ないような気もしま
す。
せっかくお金をかけて大迫力の戦闘シーンを撮ったのだから、そこはシリアスにと、メリハリをつけた方が効果的だったのではないでしょうか。
原作はセバスチャン・ジャプリゾの小説「長い日曜日」。
ミステリ小説だけあって、登場人物が入り組んでいて、それがわかるような映像化はかな
り大変です。でも、各エピソードが魅力的に描かれているため、わからなくても気にならずに楽しめます(たぶん)。
映画化が決まって楽しみにしていたジャプリゾでしたが、2003年、脚本完成の1週間前に亡くなるという切ないエピソードも。
この作品はフランス映画史上最大級のスケールで作られ、ハリウッド大作なみの製作費がかけられています。
なんでも、米ワーナー・ブラザース映画が全体の 35% を出資しているとのことですが、フランス語で、フランス人俳優を使って撮る、という条件で
アメリカ側から資金を調達できてしまうところは、ジュネ監督がいかに高く評価されているかがわかります。
そうした恩恵はキャスティングにも表れていて、今回久々に見て、大物が意外な使われ方をしているのに改めて驚きました。
まずはマリオン・コティヤール。
失踪した兵士のひとりが付き合っていた娼婦で、後に男をユニークな方法で殺していくという、エキセントリック
な役でした。
コティヤールといえば、「エディット・ピアフ」(2007)でオスカー受賞、最近ではコラム第一
回で取り上げた「インセプション」でも重要な役を演じる大物女優ですが、この作品での「サイコがかった女」的な役が妙にハマる人の
ような気がします。
そして次はなんとジョディ・フォスター(!)
仏軍兵士の妻、エロディ・ゴルドという、土着的なフランス女性の役で、あまりにも自然なフランス語を話していたせいか、公開当時は気づきませんでした。
詳細なマスコミ向け資料(プレス・シート)を当時読んでいたハズでしたが、配給会社の都合か何かで写真も
名前も伏せられていたせいもあります。
にしても、フランス女優を差し置いてアメリカ人であるジョディを、しかもけっこうチョイ役で使うなんて、ジュネ監督のこだ
わりなんでしょうか
。戦時下のベッド・シーンも生々しく、えっちに撮っていて、すてきではありますが。
キャスティングでいえば、失踪した恋人役のギャスパー・ウリエルは、あどけなさの残る20才としてイイ味ですが、それより
何日か若いという設定
の主人公マチルダ役にはオドレイ・トトゥは少し苦しい感は否めません。
彼女は当時25歳くらいでしたが、思うに40歳が25歳を演じるくらいならメ
イクでそれなりに解決できるけれど、「あどけなさ」は大人になってしまうと、どうにもならないのでしょう。
そしてクライマックス。だいたいこのテの映画は結末がうすうすわかってしまうものですが、そこは監督のウデの見せどころ。
決して予定調和とせずに、ちょっぴりせつなくて、ほのぼのとした余韻を残します。
名画座の番組編成
について
さて、今回ふくめ名画座の番組編成を見ていつも不満に思うのは、2本立てなどの場合、「○○監督特集」や「ミュージカル特
集」など似たような
系統の作品を並べる劇場が多いことです。
同一監督の作品を並べた場合、概してキャスティングが類似したものになりがちです。今回も主演は両方ともオドレイ・トトゥだし、他に何人か同
じ俳優が出ています。ひどい時になると、1本目では正義の好人物だったのが2本目ではずる賢い悪役になったりして、続けてみるとすごい違和感
があります。
当然のことながら、作風も似たようになるので、なんだか代わり映えがしません。
ミュージカルやラブ・ストーリーどうしを並べる編成も考えものです。似たような作品を続けて見るのはどうしても面白みに欠
けます。
昔横浜にジャック&ベティという2スクリーンの映画館がありました。
現在も同じ名前の映画館はありますが、いったん閉館した後、経営者が変わっているので今は別物です。
そこの編成は中々素晴らしくて、「○○特集」などというタイトルをつけずに、邦画と洋画、文芸ものとエンターテイメントものというふうに実に
柔軟な編成をしていました。
毛並みの違う作品の組み合わせなので、両方とも新鮮な気持ちで見ることができるし、目当ての洋画のついでに併映の邦画メジャー作を見て意外な
良さを発見できたりと、私にとってはいいことずくめでした。
だから個人的にはこうした「楽しめること優先」の編成の方がゼッタイいいと思うのです。
今の名画座の編成はマニア好みで、「○○特集」など、動機づけにこだわりすぎているのではないでしょうか。
名画座を「おたくの巣窟」みたいにしないためにも、柔軟で楽しめる編成にしてもらいたいものです。
(2010/09/16)
Photo : 虚空慈 kokuuji
アップロード : 2010/09/16 更新
: 2010/11/22 html修正 : 2011/01/13
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