Tune 8 ホームへ ★ AFNラジオのプレイリストから最新の洋楽をいち早く紹介!
+
★ ロック、ポップ、ソウル、オルタナ、メタルからカントリーまで

◆ Notes 〜 映画コラム  ◆

ブログという語は響きが美しくないのでニガテです。

黄花写真

 映画フィルムで、えくすたし 

★第1回 再見!黒澤明「羅生門」と「インセプション」

このコラムでは私が音楽と同じくらい愛する映画について、私見を述べたいと思います。
見る本数は、今では年間30作ほどになってしまいましたが、私がマスコミで新作映画紹介の仕事をしていた頃は年間100本以上見ていました。
私は勘違いした映画マニアによくありがちな、「ツウ好みな映画をもっともらしい言説で論ずる」ことは好みません。
大昔から芸術そして音楽も多くは「人を楽しませるもの」であり、たかだか100年の映画もしかり。エンターテイメントを軽視すれば発展はないでしょう。で すので私は良いものは分け隔てなく語っていくつもりです。
また、私も映像屋の端くれですので、全ての作品および製作者に敬意を払いつつ、批評というよりは、気づいたことや見どころ等を語っていきたいと思います。

なお、当コラムでは基本的にネタバレ、つまり物語の結末がわかるような記述はしません。 未知の物語を味わう上での最大の楽しみを奪う権利など誰にもなく、ネタを明かしてしまう紹介文ほど野暮なものはありません。

今回は第一回ですので、私が使用する用語について簡単に説明しておきます。
「映画」とは映写機で回す光学フィルム又は HDTV などシネマ品質の高精細度ビデオ・システム( DLP など)によって映画館など、暗い会場で上映するものをいいます。
詳しい説明は専門的になってしまうので避けますが、私が「映画」と呼ぶものは全て劇場で上映されたものを指します。DVDビデオやテレビなど、電気的にビ デオ信号に変換されたものは色合いなどが変わってしまうので、よほど特別な理由がない限り、私は見ません。
ですので、私が「(作品名)を見た」と言えばそれは全て「劇場で見た」ことを指します。
よって、映画の中身に関する記述は基本的にはフィルム上映で見た記憶を元にしていますので、間違いなどがある可能性はあります。

さて、やっと本題。まずは新作モノをごく簡単に。

「インセプショ ン」 
監督:クリストファー・ノーラン 出演:レオナルド・ディカプリオ ほか (2010年公開 ワーナー・ブラザース)

「インセプション」 チラシ全米1 位、興収2億ドル超えの特大ヒット作。
去る8月22日に渋谷の映画館の前を通ったら、満員の人気ぶりでした。
相変わらずアイデアと目の付けどころが心ニクいノーラン監督で、アクションの面白さ、幻想的な映像など、楽しく見ました。

しかし!問題も少々。
まず、ネタが「夢」であるところが少し感情移入の妨げになってしまう。
つまり、撃たれたり死んだりしてもドキドキしない、ということになってしまいます。

あと、2時間30分は長い。特に主人公と妻との葛藤のエピソードが長くて、作品全体が間延びしてしまった。
C.ノーランやポール・トーマス・アンダーソン監督は良い映画を撮るけど、概して長い。
せっかく脚本書いて、大変な撮影をしたのでなるべくカットしたくない気持ちはボクもわかるけど、心を鬼にして編集すれば、もっと良くなると思います。

「羅生門」 
監督:黒澤明 出演:三船敏郎 ほか(1950年・大映)
「羅生門」 写真8月4日より 「黒澤明 生誕100年記念23作品一挙上映」が東京芸術センターで始まり、第一回作品が「羅生門」でしたので 8/15 に行ってきました。
過去に2度ほど「見て」いますが、キャリアを積んだ今見るとどう感じるか興味があったので。

ちなみに、23作品とは、黒澤作品全てではなく、ソビエト映画「デルス・ウザーラ」や晩年の作品「夢」など、上映されない ものもいくつかあります。おそらく興行権の関係か何かなのでしょう。

内容に関しては、世界の映画史上屈指の名作といわれ、ヴェネチア映画祭グランプリなど数々の受賞歴がある、あまりにも有名 な作品なので説明は省きます。

教科書の説明的には
1)フィルムが燃えやすいシネ・キャメラを歴史上初めて太陽に向けたといわれる
2)登場人物は総勢たったの9人、シーンはたったの4つというシンプル極まりない構成ながら、人間の我欲や欺瞞を鮮やかにあぶり出した演出が見事
などがこの作品の凄いところと言われています。

まず、撮影に関しては、その偉大な功績で世界の映画人から賞賛された名キャメラマン、宮川一夫だけあって、構図など、実に 見事です。
ただし、後年に宮川自身が語っているように、「決して謙遜ではなく、撮影は全て黒澤さんの演出に従ったもの」であることも忘れてはならないでしょう。
一般の人は、撮影=キャメラマンの技術、と考えがちですが、演出(監督)あっての撮影なのです。
あと今回見て、白黒フィルムでありながらその色(陰影)の美しさにあらためて感心しました。

「羅生門」 セット写真2. の簡素な構成に関しては、製作時期が戦後の復興期ということもあり、制作費の制約がかなりあったためにセットも極力使わずにすむように作られたと思われま す。

それでも、オープンセットで建てられた、朽ち果てた羅生門はすごい重厚感と退廃をかもし出し、当時の日本映画の心意気を感 じます。
これこそ、スクリーンで見なければ味わえません。




さて私が今回改めて感心したことは、「殺し合いの迫真性」です。
三船敏郎演じる盗賊と森雅之の武士が山中で殺しあうシーンが実にスゴイ。
何が「スゴイ」のか、簡潔にいえば、「へなチョコでカッコ悪い、でもリアルな殺し合い」なのです。

お互い、剣が交わっただけでビビってひっこむ、ワアッと大声で威嚇すればたじろぐ、土や枝をひっつかんで投げる、相手がつ まずいて転べばその足にしがみついて押さえつけようとする。
フツーの時代劇に出てくるようなスマートな斬り合いなど、そこにはない。しかしそういった振り付けされた斬り合いの方が本当はウソっぱちではないか、そん なふうにも思えてきます。

思うに、スマートな斬り合いなどは、よほど鍛錬を積んだ者同士でなければ成り得ないのでしょう。
何かで読んだけど、江戸時代の少人数の果し合いの現場では お互い必死になって刀を振り回すものだから、斬られまいととっさに手で刃をつかんだりして、指が落ちたりすることが多々あったといいます。
黒澤の世代なら、祖父母の代あたりの人から実際の斬り合いとはどういうものだったかを伝え聞いたことがあったのかもしれません。それが演出に反映された可 能性はあります。

こうした殺し合いという状況下で本性をムキ出しにして、勇ましい男 という矜持すらかなぐり捨て、生き残るためにじたばたと争うさまを赤裸々に描いたところがこの作品の凄さなのだと思います。

他に気づいた点としては、
最初の方で木こりが山道を歩くシーンが少し長く感じた。
検非違使の前で武士の妻が証言するシーン、奥に木こりと僧が座っているカットに構図の美しさを感じた。
千秋実の僧は証言中、ずっと微動だにせず座っており、道端にたたずむ石仏のような風情で、美しくもあり、不気味でもある。
こうした細かい点も黒澤の演出の奥深さを感じます。

(2010/08/23)






Photo : 虚空慈 kokuuji

アップロード : 2010/08/23    更新  : 2010/11/22

 TOP↑


文章の無断転載を禁ず   Copyright : (C) Tune 8/ カノウエイト  Since 2010