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◆ Notes 〜 映画コラム  ◆

ブログという語は響きが美しくないのでニガテです

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 映画フィルムで、えくすたし 

は じめにお読みください〜このコラムについて

★第5回 ホントに傑作? ゴダールの「勝手にしやがれ」

ヌーヴェル・ヴァーグの旗手だの、史上に残る傑作だのという枕詞はどうでもいい。
みなが異口同音に唱える名作だろうがダメなものはダメだし、アイドル主演作であってもイイものはいい。自分の目で判断できない評論家(もどき)が一番哀れ だ。

ゴダール映画祭 チラシ

この「勝手にしやがれ」は今まで見たことがなく、今回 2010年12月に日比谷の TOHOシネマズシャンテでニュー・プリントによる回顧上映があったのでようやく見ることができた。

しかし本題に入る前に、苦言をひとつ。
今回の「ゴダール映画祭 2010 」の公式チラシにおいて、本作の解説文では何と、映画の結末を明かしてしまっている。
なんとも、お粗末極まりない。推理小説を紹介するとき、「犯人の○○の最後のセリフがいい」なんて書きかたするか?映画を見る楽しみが半減してしまい、全 くの興ざめである。
「映画のモノ書き」として仕事をするなら、もう少しマシな文章を書いて欲しいものだ。

本作の話に戻ろう。
名匠ゴダールのデビュー作にして最高傑作なんて言われてるけれど、、フランス(や日本)のアヴァンギャルド系映画は考えすぎでつまんないものも意外と多い ので、まずはまっさらな気持ちで。

「勝手にしやが れ」 A Bout de Souffle (1959年/フランス/89分/35mm スタンダード 白黒)
督:ジャン=リュック・ゴダール 原案:フランソワ・トリュフォー  出演:ジャン=ポール・ベルモンド、ジーン・セバーグ ほか    *1960年ベルリン映画祭最優秀監督賞

「勝手にしやがれ」 紹介写真

出だしから女を振り切り、観念的な言葉を口走りながら高級車で失踪するJ. P. ベルモンド。
そして起きる第一の事件の描き方があまりにも唐突でクールだ。

次に感心したのがベルモンドが恋人のジーン・セバーグを車で送る移動ショット。

J. セバーグ 車上写真

彼女の、これまた観念的な恋愛論をセリフの流れに合わせて同ポジつなぎ(同じ画角の人物などのカットを別の同じ画角のカッ トと続けてつなぐこと)を何度も するのだが、これが実にキマッている。

こういう編集はプロはおろか、少しでも編集を学んだ人なら、まずやらないが、このでのゴダールは運転するベルモンドの切り 返しのカットを一つも挟むことな く、意図的に、軽々とやっている。しかも見ていて全く違和感がないのがすごい!
デビュー作でこんな冒険をピタリと決めてしまうゴダールと、それを容認して世に出してたプロデューサーはなかなかたいしたものだ。

(あともう一ヵ所、たしかカフェで通信社員とセバーグが話すシーンでも、この同ポジつなぎをしていた)

ちなみに、こうした手法は一般的に「ジャンピング・カット」と呼ばれているが、プロが使う映像用語としての「ジャンプ」つ なぎとは少し違う。あの場合はむしろ、「同ポジつなぎ」の方が適しているのだが...。

また感心したのが、ベルモンドが彼女のホテルの部屋に押しかけて延々と口説くシーン。

ホテル室内 写真

比喩を交えながら巧妙に、時には直接的な表現で迫るベルモンドと、それを軽々と、時には強く拒絶しながらも少しずつ彼に心 が傾いていくセバーグ。その会話 のテンポが絶妙だ。
かなり長いシーンながら、言葉の一つひとつが新鮮で、セリフ回しが見事。優れた脚本だ。

この映画、音の扱い方も何だか凄くて、このシーンでも、ホテルの上層階の一室で二人が話す間中、車やら街のノイズが鳴りっ 放しだ。
これはアマチュアがロケでノイズも一緒に録ってしまったのならまだしも、プロの映画では普通はやらない。(そもそも、実際のホテルの一室で撮る必要がな い)
ゴダールは二人の下世話な色事話を街の喧騒と混ぜこぜにすることで得られる演出上の効果を狙ったのかもしれない。

「勝手にしやがれ」 ベルモンド 1s 写真

また他にも到るところでこうした演出が見られるが、ノイズを同居させることで、セリフの(意味としての)強弱や遠近感を表 しているようで、興味深く見ていた。

音の話ついでに音楽の話で言えば、劇中かの室内でちっちゃなレコード・プレーヤーでかける優雅なモーツァルトのクラリネッ ト協奏曲の効果はチャーミング。
また確か別の場面で「バッハはずいぶん聴いた」と言いながらショパンなどのピアノ曲をかけるところも。
厭世的な若者が好む音楽として当時流行していたジャズではなくて、保守的なクラシックを使ったところも監督の確かな意図を感じる。
J. セバーグ 1S 写真

そして!やはり圧巻なのはラスト・シーンだろう。
ベルモンドら3人のセリフのやり取りの洒脱さは脳天への強烈な一撃だ。
まさにブッ飛ぶくらいにスゴくて、忘れられない。

...しいて言えば、最後はフェイド・アウトではなくカット・アウトでパッと終わった方が、もっとインパクトがあったよう な気がする。
中期以降の小津安二郎監督のように。

よく、「デビュー作にして傑作」なんていう表現があるけれど、この作品の凄さはむしろデビュー作だから、だったのかもしれ ない。
映画を志す者、第一作に至るまでには色々やりたい表現、アイデアを温めているものだから。
それらが解き放たれ、狂い咲きのように見事に結実した意欲作、それが「勝手にしやがれ」だったのだと思う。


(2011/01/18)






Photo : 虚空慈 kokuuji

アップロード : 2011/01/18   更新  :

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